オーシャンゼリゼ!

「これで今日の撮影は終了です」
スタジオを飛び交う「お疲れさまでした」の声に勇利は全身から力を抜いた。
(やっと解放される……)
詰めていた息を吐き出す。口を動かすと頬に引きつれたような感触があった。半日以上表情筋をフル稼働させていたのだから当然だ。
早く衣装を脱ぎたくてたまらない。今自分が身にまとっているオールブラックの衣装は生地がなめらかで信じられないほど着心地がいいけれど、だからこそ落ち着かない。
どこかに引っかけて布が裂けてしまわないかとか、飲み物をこぼして染みにならないかとか、無駄に神経を遣ってしまう。
「皆さんお疲れさまでした。とてもいい写真が撮れたとカメラマンが喜んでいましたよ。明日もよろしくお願いしますね」
女性スタッフが発したtommorowの単語を耳にして勇利は胸の内でげんなりした。
明日もまたこの苦行が続くのかと思うとどうしても気が滅入る。今日はスタジオ撮影だったからまだいいが、明日は一日屋外での撮影だ。パリを行き交う人々の注目を嫌でも集めてしまうに違いない。
カメラの前でポーズを決める自分は普段の自分とあまりにも乖離していて、勇利にはそれが辛い。私生活ではハイブランドを好んで身に着けない自分がファッション誌の表紙を飾るなんて詐欺だとすら思う。
(CMのほうがよっぽど楽だ……)
商品が売れなくても、評判が悪くても、それは供給と需要が一致しなかっただけでCMの出演者にとがはない。だが服の広告は違う。
服の良し悪しはモデルで決まる。モデルはこの服はこんな人に似会いますよという指針だ。髪の色、瞳の色、肌の色。全てが判断材料になる。モデルが完璧に服と調和して初めて魅力的な広告ができあがる。
ファッションに興味のない勇利には少々荷の重い仕事だった。
「それでは更衣室にご案内します。表にタクシーを回しておきますので着替えが済みましたらホテルにお戻りください」
早く熱いシャワーを浴びたい。本当は思う存分滑りたいけれど、ホテルの近くにスケートリンクはない。
ストレッチをしてご飯を食べて今日は早めにベッドに入ろう。
ぐったりとソファの肘掛けにもたれていた勇利は女性スタッフの誘導に重い腰を上げた。しかし。
「Excuse-moi」
歩き出そうとした彼女をヴィクトルが呼び止める。
「ヴィクトル?」
戸惑う勇利を一瞥してヴィクトルはぺらぺらとフランス語をしゃべり始めた。フランス語のわからない勇利とユーリは完全に置いてけぼりだ。
(なんなんだよ)
どちらも英語ができるのにわざわざフランス語を使う必要がどこにあるのだろう。勇利はぐっと眉間にしわを寄せた。
女性スタッフと談笑しているヴィクトルの姿を見ているとむかむかする。自分はこんなにも疲れているのにヴィクトルにはまだおしゃべりを楽しむ余裕があるのだ。
いらいらと足踏みをする勇利は自分の顔を見たユーリがおええと舌を突き出したのに気付かなかった。
「勇利!」
やっと会話を終えたヴィクトルがこちらに歩いてくる。彼は勇利の腰に手を回すと耳元ではしゃいだ声を上げた。
「聞いて、勇利。衣装気に入ったから買い取ったよ。俺と勇利の。一式まとめて」
「はい?」
「タクシーも断った。このまま観光に行こう? 勇利は何が見たい? ユリオは? どうする?」
「付き合ってらんねえ。俺は帰る」
短く吐き捨ててユーリがその場をあとにする。バイバーイとヴィクトルが無邪気に手を振った。
「…………あのさあ」
予想より低い声が出た。駄目だ。この態度はよくない。わかっているけれどどうしても声がとがってしまう。
「僕疲れてるんだけど」
へにゃっとヴィクトルの眉尻が下がった。困っているようにも悲しんでいるようにも見える。喜んでくれると思っていたのにどうして勇利は不機嫌そうなんだろう? そんな心の声が聞こえてきそうだ。
「俺だって疲れてるよ? でも空元気も元気の内っていうだろ? ちょっと休憩してゆっくり街並みを散歩すれば楽しくなるさ」
「こんな目立つ服を着て? 冗談じゃない。絶対嫌だ」
いらだちが最高潮に達した。何もかも勝手に決めるヴィクトルに腹が立って仕方がない。いつもの彼ならすぐに勇利の消耗具合を察して気にかけてくれるのに、どうして今日はますます疲弊するようなことしか言わないのだろう。
「どうせ自撮り写真をアップしたいとかそんな理由でしょ。こんな服全然好みじゃないんだからやめてよ。僕はヴィクトルとは違うんだから」
言った瞬間、すっとヴィクトルの顔から表情が抜け落ちた。怒らせた。けれど自分は悪くない。勇利は唇を引き結んでヴィクトルをにらむ。
「俺と勇利の価値観は大きく異なる。OK。それは認めよう。でも勇利。こんな服、ってどういう意味?」
「それ、は、」
「その言葉はこの素晴らしく洗練されたファッションを生みだしたデザイナーや、職人や、今日このスタジオに集まって撮影に尽力してくれた全てのスタッフを侮辱する言葉だ」
「…………」
「それと勇利は勘違いしているけれど、俺はただ今日という一日を特別なものにしたかったんだ。今日の俺たちは最高だ。だから思い出を作りたかった。ただそれだけだよ」
スケーターではない貴重な俺たちの姿もどこかに留めておきたかっただけだよ。勇利には余計なお世話だったみたいだけど。
静かに淡々とヴィクトルは勇利を責めた。言いたいことを全て言ってしまうと彼は足早にスタジオを立ち去った。
一人取り残された勇利はヴィクトルがいなくなるのを待って走り出した。更衣室で着替えを済ませ、荷物を持ってまた走り出す。タクシーを捕まえて乗り込んだところでようやく泣けた。
みっともなくて、情けなくて、みじめで、ただひたすら恥ずかしかった。


真っ黒な液面に申し分のない色男の顔が映り込んでいる。憂いに満ちたその顔を長いこと見つめ、ヴィクトル・ニキフォロフという名の色男は小さくつぶやいた。「勇利のばか」と。
ここはパリのシャンゼリゼ通り。世界で最も美しいと名高い目抜き通りだ。ヴィクトルはカフェのオープンテラスに座って時間を持て余していた。
本当なら今頃は勇利と肩を組んで楽しく観光しているはずだった。エトワール凱旋門を背景にツーショットを撮って、ルーヴル美術館で芸術鑑賞をしたあとはライトアップされたエッフェル塔に登って、自分がどんなに勇利を愛しているか伝えようと思っていた。
ロマンチックなレストランでディナーを済ませ、盛り上がった二人はシャワーもそこそこにベッドに向かう。明日も撮影があるので今夜はゆっくり優しく勇利をとろかしてやるつもりだった。それなのに、だ。
「俺は勇利とは違う、かあ……」
あれはかなりこたえた。ため息をついてヴィクトルはコーヒーをすする。空腹なはずだがちっとも目の前のサンドウィッチに手をつける気にならない。
(もう少し歩み寄ってくれると思っていたんだ、俺は)
普段ならぶつぶつ文句をこぼしつつも最終的には苦笑して自分のわがままを聞き入れてくれる勇利が、今日は頑として折れなかった。
着飾った自分の姿を大衆にさらすのがそんなに嫌だったのだろうか。勇利の冷たい視線を思い出すと、なす術もなく悲しくなる。
(試合のときはもっと派手な衣装だって着てるじゃないか)
慣れない撮影で勇利が憔悴しているのは一目瞭然だった。今日のヴィクトルは阿呆みたいに浮かれていたので、勇利への気配りを忘れてしまった。
(勇利、泣きそうだったな)
短気を起こして置いてきてしまったけれど、あのあと勇利はどうしただろう。やけ食いをしてなければいいのだが。
(でも、そうだ、勇利は最初から乗り気じゃなかった。あの子は今日ずっと我慢をしていたんだ)
勇利はCMのオファーは受けるがモデルの仕事はほとんど引き受けないと以前言っていた。ヴィクトルがわけを訊ねると彼は少し考えてからこう答えた。
――僕みたいなのがモデルをやるのは普段から身なりに気を遣っている本職の人たちや、頑張ってお洒落をしている子たちに失礼な気がするから。
一生に一度でいいから全身をハイブランドで固めてみたい。願っても金銭的な理由で諦めなければならない人間は大勢いる。なのにファッションに無頓着な自分がスタジオでスポットライトを浴びるのは間違っている。僕が輝く場所はリンクだけでいいんだよ。
自分にブランド物を身に着ける資格はない。そう言って勇利は肩をすくめたのだ。
思い出してヴィクトルは呻いた。震える手でティーカップをソーサーに戻す。どうして忘れていたのだろう。
今回勇利がファッション誌のモデルを引き受けたのはユーリのためだ。普段仕事のオファーは各々のエージェントを経由して回ってくる。だが今回はチムピオーン・スポーツクラブの受付に直々に届いたオファーだった。理由は花形選手三人まとめての指名だったからだ。話題性さえあれば国籍など関係ないという思惑が透けて見えていた。
ヴィクトルとユーリはすぐに契約書にサインをしたが、勇利だけがなかなか首を縦に振らなかった。
決め手になったのはユーリの「俺のスポンサー集めに協力しろ」という一言だった。勇利はスポンサーに関しては恵まれている。フィギュアスケートは日本では人気のスポーツで、ショーの興行成績も企業の金払いも悪くない。ヴィクトルに至ってはこちらがスポンサーをふるいにかける立場だ。
だがシニア上がり立てのユーリに契約を持ちかけてくるスポンサーはまだ少ない。モード誌の表紙を飾ればユーリの需要は増すだろう。言動はともかく容姿はピカイチなのだから。
三人でそんなことを話し合い、勇利はユーリのためならと了承した。
勝生勇利には変に頑固で潔癖なところがある。清濁あわせのむという芸当が彼にはできないのだ。
今日だって撮影をしている間、全力で挑まなくてはと思う反面、後ろめたさで死にそうになっていたのかもしれない。自分はそんな勇利の心情を慮りもせず、へらへらして彼の怒りを買った。
その挙句に逆切れしてまともにフランス語をしゃべれない勇利を一人にしてしまった。最低のクソ野郎だ。
ヴィクトルは勢いよく立ち上がった。その拍子に椅子が派手な音を立てて後ろに倒れる。
(勇利に謝らないと! 待て待て、その前に花だ! どこかで花を買ってから……!)
足早にヴィクトルは歩き出す。人混みの合間を縫って花屋を探すが、こんなときに限ってなかなか見つからない。ヴィクトルが「クソッ!」と毒づいたそのとき、ポケットの中で携帯が震えた。
イライラしながら携帯を取り出したヴィクトルは一瞬動きを止め、次いで全力で走り出した。コートの裾を翻し、髪を振り乱して疾風のようにパリの街並みを駆けていく。
新着メールの差出人は勇利だった。メールにはたった一言「エッフェル塔で待ち合わせを」とだけ記されていた。それでもいい。沈んでいた気分が一気に浮上し、ヴィクトルの口元が知らず知らずほころぶ。
心が弾む。愛しい人が待ってくれている。ヴィクトルの頭の中では世界的に有名なあの歌が流れ始めていた。オーシャンゼリゼ!


「ヴィクトル、シャワー次、」
どうぞ、と言いかけて勇利はとっさに口をつぐんだ。後ろ手で静かにバスルームのドアを閉める。口癖でついヴィクトルの名前を呼んでしまったけれど今この部屋に彼の姿はない。
シャワーを浴びた勇利はパンツだけ履いた状態で仰向けにベッドに倒れ込んだ。濡れたままの髪が首筋に張りついて冷たい。シーツが水分を吸収してみるみる染みが広がっていく。構うものか。こういうことに関しては厳しいヴィクトルが居合わせていないのだから。
おもむろに勇利は右腕を持ち上げた。部屋の照明に指輪をかざしてためつすがめつしてみる。金色の光がちかちか点滅してまぶしい。
右腕を落とし、勇利は両目を閉じた。するとまぶたの裏に先程のヴィクトルの表情が浮かんでくる。
(ヴィクトルを傷付けた。多分。ものすごく)
ごろりと寝返りを打つ。枕に顔をうずめて勇利は足をじたばたさせた。消えろと念じるほどに罪悪感と自己嫌悪が増していく。
自撮り写真を載せたいだけとか、こんな服好みじゃないとか、そんなのは全部言葉のあやだ。言ってはいけないことをヴィクトルに言ってしまった。
(四歳差って意外とでかいよなあ)
勇利とヴィクトルではまず人生経験に圧倒的な差がある。ヴィクトルは大人だ。メディア対応は完璧で、公の場では決して負の感情を表に出さない。滅多に声を荒げたりしない。
怒って泣くヴィクトルを勇利が見たのはたったの一度だけ。
(どんなに疲れててもヴィクトルは僕をないがしろにしない)
先にシャワー浴びていいよ。夕食は何がいい? 簡単なものでよければ俺が作るよ。勇利、今日は疲れただろ? 俺がマッサージしてあげる――。
ヴィクトルはこれ以上ないというほどまめまめしく勇利の世話を焼いてくれる。
(二十八歳になった僕がヴィクトルと同じことができるとは思えない)
フィギュアスケーターとして、一人の人間として、勇利はとてもヴィクトルを尊敬している。ロシアで一緒に暮らすようになってから勇利は彼の器の大きさを思い知らされるばかりだ。
(こんなんじゃいつ愛想を尽かされてもおかしくない)
ヴィクトルは本当に心の底から今日を楽しみにしていたのだろう。いつもとは違う格好をして、美しい街並みを眺めて、遊んではしゃいでじゃれ合って。彼のことだから情熱的な一夜だってプレゼントしてくれたかもしれない。それもこれも勇利のためを思って。
けれど勇利はつまらないやきもちを焼いて彼の計画を台無しにしたどころか、自分が最も見たくない顔を彼にさせてしまった。
ヴィクトルは素晴らしい人だ。素晴らしいあの人に釣り合うような人間でありたい。どんなときでもヴィクトルに相応しい自分でいたい。
(僕にはハードルが高すぎる。でも、やらなくちゃいけない)
ずっと隣に立ち続けるための努力を忘れてしまったら、勇利は本当に人でなしになってしまう。
温かな愛情を与えるだけ与えてもらって、自分は何も差し出さないなんてそんなのは間違っている。
(謝らなくちゃ、ヴィクトルに)
勇利は全身のバネを利用してベッドから飛び起きた。床に丸めて脱ぎ捨てた洋服を急いで着込む。姿見で全身を確認し、勇利はほっと息をついた。幸い目立つしわは存在しない。
髪を乾かして、セットして。ヴィクトルにメールも送らなければ。
ズボンに入れたままだった携帯を引っ張り出して勇利は少しだけ迷った。しかしすぐに指を動かす。
「エ、ッ、フェ、ル、塔、で、待、ち、合、わ、せ、を。送信、っと」
メールがきちんと届いたのを確認して勇利は花が咲くように笑った。
「さてと。気合い入れなくっちゃ」
一番美しい自分の姿をヴィクトルの目に焼き付けるのだ。


ヴィクトルが息を切らしてエッフェル塔の展望台に辿り着くとそこには既に勇利の姿があった。小さな花束を手にして忙しなく四方八方に視線を飛ばしている。
ヴィクトルは自分が持っている花束を後ろ手に隠して笑いを噛み殺した。段々と行動が似通ってきている。おかしくて嬉しい。
驚くべきことに勇利は日中撮影で使った衣装をこの場に着てきていた。
前髪を横に流してワックスを全体にもみ込んでいる。展望台の柵にもたれて待ち人を待つ勇利がかもすダンディズムにヴィクトルはほうっと見蕩れた。派手さはないがあふれ出る気品が違う。
ヴィクトルがじっと観察していると勇利がこちらに気付いた。花束を背に隠したままヴィクトルが手を上げると彼は安堵したように笑って、柵から身を起こした。
ヴィクトルは勇利に歩み寄ると先手を打たれる前に口を開いた。
「待たせてごめんね、勇利」
「ううん。僕も今来たところだから」
沈黙が落ちる。けれどそれは気まずいものではなかった。至近距離で見つめ合う。今二人の間に言葉はいらなかった。
穏やかで満ち足りていて幸福で。この瞬間が永遠になればいいとヴィクトルだけではなく、勇利も願っているに違いなかった。
しかし心地よい沈黙は長くは続かなかった。周囲から歓声が上がる。ヴィクトルが目を白黒させていると何かに気付いた勇利は「見て」と下方を指差した。
「光が……広がっていく」
「ああ、そっか。もうそんな時間なんだ」
太陽は地平線のかなたに沈み、空には濃紺の帳が降りている。帳には幾千幾万の銀色にきらめく星が縫い付けられ、そして――眼下に広がる街並みをライトアップされたエッフェル塔が照らし出していく。
光の環はまたたく間に広がり、セーヌ川の水面をやわらかな橙色に輝かせる。
ぱちぱちとまばらな拍手が起き、エッフェル塔のライトアップが完了する。その様を一部始終眺め、ヴィクトルはふたたび勇利の顔に視線を戻した。
ヴィクトルの視線を受けて勇利が恥ずかしそうに花束を差し出してくる。
「さっきはごめん。大人げない態度を取ってあなたを悲しませたよね。僕、自分のことばっかりで全然周りが見えてなかった。……これで許してくれる?」
「もちろん。もちろんだよ、勇利」
花束を受け取ってヴィクトルは背に隠していたものを勇利の眼前に掲げた。あ、と勇利が目を丸くする。
「自分のことばかりだったのは俺も同じだ。すまなかった。勇利は今日一日ずっと頑張ってたのに、俺は更に無理をさせるところだった。花束、受け取ってくれる?」
「当たり前。ありがとう。すごく嬉しい」
花束が勇利の手に渡る。ヴィクトルは首を傾けて自分の額を彼の額にくっつけた。
「俺のこと嫌になったんじゃない?」
「それはこっちの台詞です」
「俺が? 勇利を? ありえないね。手がかかる子ほどかわいいっていうだろ?」
「僕ヴィクトルのそういうところ好きだよ」
「わお、勇利が素直だ」
「さすがに反省してるから。今日は出血大サービス」
「……そのサービス、ベッドの中でも有効?」
想像して喉仏が勝手に上下する。ヴィクトルの即物的な反応に勇利は呆れるどころか嬉しそうに目を細めた。
「いいよ。優しくしてくれるならなんでも言うこと聞く。でもご飯食べてからね」
お腹すいちゃった僕。そう言って離れていこうとする勇利の手首をヴィクトルは反射的につかんでいた。もらった花束で口元を隠し、触れるだけのキスを贈る。
「ごめん。我慢できなかった」
悪びれずに舌を出したところ、肩を思いきり小突かれた。足元がよろめく。その隙に軽やかな足音を立てて勇利が階段を駆け下りていく。
「待ってよ勇利!」
ヴィクトルは声を上げて笑いながら勇利を追いかけるための一歩を踏み出した。
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