バスタブにハチミツを垂らすの

ヴィクトルの家の湯船は広い。向かい合って浸かっても足を伸ばせるくらいのスペースがある。
窓も大きい。サッシには曇り硝子が嵌っていて、ジャロジーと呼ばれる構造のそれはハンドルをくるくる回すと開閉できる仕組みになっている。
窓の内側には網戸が設置されていて、虫やゴミが入ってこないようになっている。
その窓から朝の真っ白な陽光が燦々と降り注ぎ、浴室の中を明るく照らし出していた。
今日はヴィクトルも僕もお休みだ。昨夜ベッドで睦み合い、どろどろのぐちゃぐちゃになった僕たちは朝風呂という贅沢かつ至福のひと時を過ごしている。
「ゆうりー、こっちにおいでよー。離れてると寂しいよー」
閉じたまぶたに指を当ててわざとらしく泣きべそをかく振りをするヴィクトルに僕はくすりと笑みをこぼした。
「だあめ。そしたらまたセックスする羽目になるでしょ。今日はやりたいこといっぱいあるんだから」
食事の作り置きもしたいし、部屋の掃除もしたい。ウォークインクローゼットの中だってそろそろ整理整頓しないと物があふれてしまう。僕が優しく言い含めるとヴィクトルはやれやれと肩をすくめた。
「勇利のいけず」
「あはっ、発音ばっちりだ」
あまりにもきれいな日本語だったので思わず噴き出してしまった。僕たちが身動きする度にちゃぷちゃぷと湯面が揺れて、大小いくつもの波紋が広がっていく。
「はー、気持ちかねえ、ヴィクトル」
僕はずるずるとお尻を滑らせた。爪先がちょっとだけヴィクトルの足の裏に当たる。肩まで浴槽に浸かって僕はうっとりと目を細めた。
「勇利色っぽい」
「色欲魔人め」
「相手が勇利だからね。仕方がない。愛してるよ」
ヴィクトルがおもむろに右手を掲げる。薬指にはまっている金色の指輪が陽光を浴びてちかちかとまたたいた。
ヴィクトルは僕に流し目をくれながら指輪にゆっくりと口付けて、手首を流れる水滴をぺろりと舐めた。
睫毛が伏せられる。ヴィクトルのけぶるような睫毛も朝の光に照らされて白く透き通っている。金剛石みたいにきらきら輝きを放っている。
彼の白い肌はところどころほんのり赤くなっていて妙になまめしかった。胸に手を当ててみると心臓がばくばくしている。
「どきどきした?」
ヴィクトルが口角を持ち上げてゆるりと微笑む。僕が好きな笑い方。
「ね、勇利、」
「あっ、も、だめだって、」
ヴィクトルの足が僕の股間を撫でる。僕は大きく体を震わせた。とっさに足を閉じたけれど間に合わなかった。やわやわとヴィクトルが指を動かして刺激を与えてくる。太い親指が玉をくすぐる。
「だめ、だめ、やめ、あぁ、あ、んっ」
ぶわっと汗が吹き出て、吐息が熱を帯びる。脳味噌がぐらぐら煮え立つ。脳味噌だけじゃなくて血液も。ペニスの先っちょをぐりぐりされて僕の体が勝手に跳ねる。
ちゃぷちゃぷお湯をかき分けてヴィクトルが這い寄ってくる。
「ね、お願い、一回だけ。中出しもなし。ね?」
耳元で囁かれ、なだめるように額にキスを落とされ、僕は唇を尖らせる。そんな愛おしげな顔で求められたら嫌だなんて言えないじゃないか。
「わかっ、た」
途端、ヴィクトルの目元が嬉しそうにゆるむ。
「ありがとう」
ヴィクトルの指が僕の頬を撫で、肩を撫で、腹筋を撫でる。そのくせ胸にはなかなか触れてくれない。
「ふ、ふ、んぅ、う」
早く触ってほしい。じれったい。もどかしい。無意識に胸を突き出してしまう。
「触ってほしいの?」
もう喋る余裕なんてどこにもなくて僕は無言で首を縦に振る。「かわいい」と呟いてヴィクトルの指先が僕の乳首をかすめた。
ぴんと立った両の乳首を親指と人差し指でつままれる。ぐりっと痛いくらいに潰されたかと思えば、くるくる円を描くようにこねられて痺れるような感覚が全身を襲う。
「ふっはぁっうっ! ふっふっ」
「勇利、舌出して」
僕が舌を出すとヴィクトルが荒々しく噛み付いてきた。舌を絡め取られて、吸われて、頬肉までしゃぶられる。歯の付け根をなぞられてびくびくと腰が震えた。
「かわいい、すごくかわいいよ、勇利。んく、ちゅ、んむ」
「んちゅんっんふっふう」
キスに翻弄されながらうっすらと目を開けると、ヴィクトルもまた真っ青な瞳で僕を見つめていた。
きれいなアクアマリンの瞳が熱に浮かされてとろけている。
瞬間、頭の中が真っ白になった。
「あ、あ、あああっ!」
たまらずヴィクトルの首にしがみついて肩で息をする。
「乳首だけでいっちゃったね」
バシバシとヴィクトルの頭を叩く。これ以上からかったら中断の意思表示だ。ヴィクトルは笑い含みの声で「ごめん」と謝ってきた。
「勇利、腰浮かして。そのまま。我慢できる?」
「ん……慣らさなくても平気じゃない? さっきまで指突っ込んでたんだし」
「確かめてみる」
ヴィクトルの指がずぶずぶと入ってくる。昨日の僕たちはずいぶんハッスルしていて、夜明けまでずっとつながっていた。
中に残っていた彼の精液をかき出したばかりだから、さいな刺激にも感じてしまう。
「ん、大丈夫そうだ。いい? 勇利」
「いいよ」
ヴィクトルのペニスはもうがっちがちだった。僕のペニスもだ。
ヴィクトルが僕の腰を抱えて、ペニスの先端をあてがってくる。僕はふっと体の力を抜いた。
「あ……ぁあっあっ!」
ヴィクトルの熱が入ってくる。熱い。じゃぶじゃぶ、じゃぶじゃぶお湯が音を立てる。
「ん、すごい、よ、勇利の中っ。あんなにずぼずぼ突いて、拡げてあげたのに、俺の美味しそうにしゃぶって、締め付けてっ、食い千切られそう」
「ほんと? なら、うれしっ! あん、あ、あ、ああ!」
ヴィクトルが過去に抱いてきたどんな人より僕がいいっていうのは名誉にすら思える。それくらい僕はヴィクトルに夢中なんだ。
ヴィクトルが容赦なく腰を叩きつけてくる。僕も負けじと腰を揺らして絶頂に上り詰めていく。
「まっ、てぇ、おなか、おなかあついのっ!」
僕のペニスが僕とヴィクトルのお腹に挟まれてしごかれて気持ちいい。でも苦しい。熱い。怖い。ヴィクトルはちらりと目線を落としてにっこりと微笑んだ。
嘘でしょ、そんなまさか。
「時間短縮」
「ひ! あぁあああ! ああん、あん、あ、あ、あ!」
あろうことかヴィクトルは更に体を密着させてきて突き上げてきた。張り詰めたペニスが挟まれて微妙に形を変える。あふれた先走りが透明なお湯を汚していく。
「あんあぁ、あぁ、あ、あ、ああ!」
ヴィクトルが切なそうに眉を潜めながら、僕の乳首に吸い付いてくる。身をよじって逃げようとしたけれど腰を強くつかまれて引き寄せられた。
「やっらあっ! あ、あん、あああん!」
ちゅぱちゅぱ音を立てながらヴィクトルが右の乳首を舐めしゃぶる。左の乳首もかりかり指で引っかかれて僕はぴんと爪先を張った。
前から後ろから刺激を与えられて僕は頭を振り乱して快楽に悶えるしかない。
お湯が激しく揺れて、浴槽からどんどんこぼれていく。
「いく、いくよ、いくからねっ勇利!」
「ううぅぁぁあぁぁあっ!」
視界がスパークして僕とヴィクトルはほぼ同時に果てた。
結局ヴィクトルは僕の中で達したので、もう一度彼の精液をかき出す羽目になった僕はしばらく彼とは口を利かないことにしたのだった。
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