スターに遭遇!

ヴィレヴァンでのバイトを終えてそこそこ疲れ果てた私はサーティーワンに寄ってから帰ることにした。
お気に入りのフレーバーはキャラメルリボンとロッキーロード。だけど最近はチョコレートミントも結構好き。前は全然駄目だったけど、試しに食べてみたら平気だった。
ママに人間の味覚って不思議だよねーって話をしたら舌にある味蕾がなんとかかんとかって説明されたけど、聞き流してたからよく覚えてない。子供の時の方が味覚が鋭いってことだけわかればいいと思う。
私がバイトしてるヴィレヴァンはお台場にあるダイバーシティの中にあって、お客さんは結構多い。今は春休み中だから私と同い年くらいのお客さんがよく来るようになっていつもよりずっと忙しい。
だからバイト終わりには糖分の摂取が必要不可欠というわけ。わかった?
カウンターで支払いを終えてアイスを受け取った私は手前の席にどかっと腰を下ろした。スプーンをくわえながら携帯を取り出していじる。
ラインの通知、3桁いってたけど無視無視。ネサフをしながら時間を潰す。
最近はまってるのは5chのオカ板。嘘かほんとかわかんないけど、面白くて怖い話がいっぱいあってついつい夢中になっちゃう。
検索をかけて適当にスクロールしてると気になるスレタイを見つけた。
『ラウワンでプロ顔負けの奴ら発見!』
私は反射的にスレタイをタップしていた。何を隠そう私は結構ガチな音ゲーマーでラウワンには毎日のように通っている。
っていうかダイバーシティでバイトするって決めたのもラウワンが中にあるからだ。バイトの行き帰りにラウワンに寄れるのめちゃくちゃ楽なんだよね。
スレの最初のほうにとにかくこれを見ろ!って興奮した文章で動画のURLが貼られていた。
それに対してのレスはこんな感じ。
グロ画像だったら殺す
ゲーセンでプロ顔負けとか意味わからんw
クソスレ立てんな
春休みだなあ
ねらーは私たちみたいなクソガキが嫌いみたいで、学生はことあるごとにキッズと馬鹿にされる。
まあ、そんなのはどうでもいっか。変なウィルスとか仕込まれてたらどうしようと一瞬迷ったけど動画を見たっぽい人たちがみんなやっばい上手すぎわろwwwって草生やしながら書き込んでるから気になってしょうがない。
私はえいやっとURLをタップした。すると別窓が開いて、何かの筐体の前に立ってる二人の男の人が映し出される。私は目を丸くした。
いやいやいやこここれダイバーシティじゃん!?
めちゃくちゃ見覚えあるし! っていうかダンエボじゃん!?
私が驚いてる間に聞き慣れたイントロが流れ始めてプレイヤーの二人が手を振り上げる。で、私はまたまた度肝を抜かれた。
めっっっちゃくちゃうめえ………。は? 意味わからん? は? っていうか二人とも超イケメンなんですけど? は?
プレイヤーの一人はプラチナブロンドの外人でめちゃくちゃ背が高くて体格もがっしりしてる。帽子をかぶってサングラスをかけてるけど、鼻がすっと高い。
もう一人は黒髪の日本人。眼鏡をかけてマスクしてるけど顔が全体的にちっちゃくてこっちも日本人にしては背が高い。
タイプの違うイケメン二人がキレッキレな動作でFlowerを踊りきって、パン! と両手を合わせた。何気にフルコンしてるしシクレ掘ってたし本当にちょっと意味わからないレベルで上手いんですけど……。
そもそもここダイバーシティのラウワンのダンエボは開けた空間にあるからギャラリーが集まりやすくて晒し台として有名な場所で。
そんなところで踊る度胸があるってことは相当ダンスに自信があるってことで。
これは居ても立ってもいられない! 私は急いでアイスを食べて駆け出した。
ダンエボの周りにはものすごい人だかりができていて、近づくだけで困難だったけどチビでガリの私はなんとか人の間をすり抜けて最前列に出ることができた。
で、見てしまった。
さっき動画に映っていた二人が今度はFollow Tomorrowを踊っている。二人とも笑顔ですっごく楽しそう。
FlowerもFollow Tomorrowも難易度の高い曲なのに易々とコンボをつなげていく。おまけに独自のアレンジまで入ってて見てるだけですっごく楽しい!
二人から飛び散る汗がきらきら輝いて見える。
当然のようにフルコンでFollow Tomorrowを踊り終えた二人にギャラリーから曲のリクエストが飛ぶ。
時々応援してまーす!とかちゅーして!とか聞こえてくるのはなんだなんだ。
私は二人をもっとよく見ようと身を乗り出した。んだけれど。
「うわわっ!」
誰かに押されたのか前につんのめって胸のあたりを強く床に打ち付けてしまった。おおおと痛みにのたうち回っていると目の前にすっと手が差し出された。
「大丈夫?」
見上げれば外人さんが心配そうな様子で首を傾げていた。私は慌てて外人さんの手を取って立ち上がる。
「だ、大丈夫ですっ!」
イケメンは声までイケメンでした。艶やかなテノールが頭の中で木霊する。
「ねえ、君のリクエストは?」
「え、えと、えーと、Brave!」
とっさに口をついて出たのは一番振りが好きな曲だった。あの正面に向かって人差し指向けるあそこがさ、ほんとかっこいいんだ。
外人さんはにっこり笑って後ろを振り返った。
「勇利!」
「オッケー、ヴィクトル」
黒髪のゆうりさん? が心得たというふうに頷いて画面を操作し、曲を選択する。
「君は後ろに下がっててね」
「あ、は、はい……んん?」
私を優しくギャラリーの中に押し戻した外人さんの右手の薬指にきらりと光るものが見えて私は目を凝らす。
「んんん?」
よくよく見ればゆうりさんの右手にも指輪がはまっていて、私はハッハーンと膝を打った。この人たちカップルなんだあ。だからこんなに仲よさそうなんだなあ。いいなー。
私がにやにやしている間に外人さんとゆうりさんがスタートポジションに着く。
ピアノの伴奏が流れ始めて、二人が手を振り上げる。


無理して我慢して生きてても
明日はやってくるけど笑えない
誰かと比べる必要なんてない
キミはキミのままでいいんだよ


ああああ! すっごい! すっごいかっこいい! やばい! かっこいい!
キレッキレなのに動きに余裕があって優雅に見える。
こんな踊れるとかこの二人本当にプロのダンサーなのかもしれない。
二人が踊り終わって盛大な拍手と歓声と口笛が巻き起こる。
アンコールの声がギャラリーから起こって徐々に大きくなっていったそのとき。

「てめーらだけで何遊んでやがんだああああ!!!」

ギャラリーの歓声をかき消すような怒鳴り声が聞こえた。なんだなんだと振り返ると、ものすごいスピードで駆けてくるスピンズとかに売ってそうないかついジャージを着た金髪の男の人が見えた。
「やっばい、ユリオだ」
「見つかっちゃったねえ勇利」
「逃げる?」
「逃げよう」
よしと二人は頷き合うと手に手を握り合って走り出した。
「待ちやがれえええ!!」
二人の後ろを鬼の形相をした金髪さんが追いかけていく。私たちはぽかんと口を開けて彼らの後ろ姿を見送ったのだった。

あとから知ったのだけど、あの外人さんとゆうりさんと金髪さんはとある界隈ではものすごく有名な人たちだった。
テレビ番組の撮影のためにお台場に来ていたんだけど、機材の不具合で休憩が長引いて、暇だったからこっそり撮影現場を抜け出してゲーセンで遊んでいたらしい。
何かの雑誌でお騒がせカップルナンバーワンの座に輝いたのを見て私は思わず笑ってしまった。
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