宇宙が肺を満たしている 03

穏やかな昼下がり。ヴァノヴァの町は活気に満ちあふれていた。威勢のいい物売りの声が行き交い、子供がきゃっきゃとはしゃぎながら通りを駆け回る。犬やら鶏やら様々な動物の鳴き声が絶え間なく聞こえる。かと思えば温かな日差しを浴びて午後のまどろみを楽しむ翁の姿なども見える。今日も町は平和そのものだった。
「最近は暇だねえ」
オリヴァーは隣に立つ男にのんびりと話しかけた。オリヴァーは海軍に属している。といっても階級は最も低い下士官である。下っ端の彼は連日ヴァノヴァ砦の入り口を警備する任務を与えられていた。
オリヴァーと共に入り口を警備しているエドモンドも同じ下士官だ。彼はオリヴァーの同期であり、よき友である。
「だな。ま、仕事が少ないのはいいことだ」
先日の大捕り物があってから海賊の襲撃がぴたりと途絶えた。安易な気持ちで手を出せば、辛酸をなめるのは自分たちだと悟ったらしい。酒場での殴り合いといった小競り合いはちょこちょこあるが、軍が出動するような大事件はここ最近起きていない。
オリヴァーとエドモンドは束の間の平和を満喫していた。
「……あの」
町行く人を眺めながら二人が世間話を交わしていると、オリヴァーに控えめに声をかけてきた者があった。エドモンドのほうに体を向けていたオリヴァーは首だけ正面に戻し、目を丸くする。オリヴァーに話しかけてきたのは見るからに怪しい人物だった。
その人物は麻の布を頭からかぶっており、目はおろか鼻すらも見えない。布からわずかに口元がのぞくのみで男か女かすら判別できない。
声から男だとはわかる。がここまできっちり自分の顔を隠している人間が真っ当な人物だとはとても思えない。オリヴァーは全身に緊張をみなぎらせた。ちらりとエドモンドに目配せする。彼は小さく頷いて剣の柄に手を添えた。
「僕はユウリといいます。ヴィクトル……じゃなかった。ニキフォロフ提督に呼ばれていて」
オリヴァーとエドモンドは顔を見合わせた。エドモンドが静かに首を横に振る。どちらもそのような報告は受けていない。
というか、彼は今、自分たちの指揮官のファーストネームを呼び捨てにしたような気がするのだが空耳ではなかろうか。
二人が困惑しているのを空気で感じ取ったのか、ユウリと名乗った男の声がどんどん小さくなっていく。
「えっと、あの、僕は怪しい者じゃなくて」
どこの世界に自分は怪しい人間ですと主張して回る不審人物がいるのだろう。
「あの、とにかく約束をしているので通してほしいんです、けど」
「……すまないが君を通すわけにはひいっ!」
いかないと言いかけてオリヴァーは悲鳴をあげた。手。無骨な男の手が急にオリヴァーの尻を撫で上げたのである。こんないたずらをするのは誰だ。悪ふざけが過ぎる。顔と名前を確認して直属の上官にちくってやる。
勢い込んで振り向いたオリヴァーは度胆を抜く羽目になった。
「ジャコメッティ閣下!?」
「ハアイ」
なんとオリヴァーの背後に立っていたのはこのヴァノヴァ砦においてナンバーツーの座に輝くクリストフ・ジャコメッティだったのである。ということはつまり先程の手の感触は……。オリヴァーは考えるのを放棄した。
「お客様を迎えに来たよ。君がユウリ?」
「は、はい」
「ふうん。布、取ってくれる? 人相を確認したいから」
「……はい」
渋々といったふうにユウリが答える。他人に顔を見られるのがよっぽど嫌なようだ。さてどのような醜男なのか。オリヴァーとエドモンドが興味津々に見つめる前でユウリがゆっくりとかぶっていた布を取る。
布の下から現れたのは極々平凡な顔だった。可もなく不可もなくといった感じだ。オリヴァーは肩透かしを食らったような気分だった。肌は滑らかで瞳は男にしては大きい。だがそれだけだ。
「黒い髪。茶色がかった目。確かに君がユウリだね。ようこそヴァノヴァ砦へ。ヴィクトルが中で待ってるよ」
「は、はい。ありがとうございます」
クリスに招かれてユウリが門の内側へ踏み込んでいく。
「お勤めご苦労様。今日も頑張ってね」
ばちんとクリスが片目をつむる。オリバーとエドモンドはしゃきっと背筋を正した。本来ならば直接言葉を交わすこともままならない相手だ。あのジャコメッティ閣下が自分たちのような一平卒に話しかけてくれた…! オリヴァーは胸の内で狂気乱舞した。
門が閉まり二人の姿が見えなくなる。感動に打ち震えていたオリヴァーはエドモンドの言葉で我に返った。
「ユウリってもしかしてあの灯台守のユウリか?」
「………あ」
黒い髪。茶色の目。黄味の強い肌。確かに噂に聞く灯台守の特徴にぴったり当てはまっている。それに彼の話す言葉はところどころ訛っていた。
灯台守のユウリ。彼はこの町では有名で良かれ悪しかれ台風の目になりうるような存在だ。本人もそれを自覚しているらしく、普段は灯台に引きこもって滅多に外出しないという。
「なんか、普通だったな」
「ああ。普通だった」
頭で思い描いていた人物像とは大いに異なっていた。オリヴァーとエドモンドは同時に首をひねる。
「どこでニキフォロフ閣下と知り合ったんだろうな」
「さあなあ」
先日の大捕り物では彼が作戦の要となっていたらしい。そのことを話すと町の住民は一様に変な顔をする。誇らしいような、悔しいような、喜ばしいような、腹立たしいような。そんな複雑な反応を見せるのだ。
その理由を二人はうっすらとではあるが知っている。だからこそ彼がヴィクトルの知己であるというのが不思議だった。
「ニキフォロフ閣下はあの噂知ってるのかな?」
「どうなんだろうな」
――曰く、ユウリは海賊の奴隷であり人殺しである。いつ寝返ってもおかしくないと。
そうまことしやかにささやかれているのだった。


ヴィクトルの唇がわの形になり、次いでおの形になった。ユウリは思わずうつむく。と、さらりと衣擦れの音がした。執務机を挟んで向かい側に座っていたヴィクトルがわざわざユウリの側に回り込んでくる。
「それじゃあ俺は別の仕事があるから」
「ああ、ありがとうクリス」
クリスがひらひらと手を振って執務室を出ていく。
「ひどい隈だ。あれから寝てないのか?」
「寝られるわけないだろ」
言ってからユウリは後悔した。ヴィクトルは何も悪くないのにかなりつっけんどんな物言いをしてしまった。不愉快な思いをさせていないだろうか。ユウリはおそるおそる顔を上げる。ヴィクトルはちっとも怒っていなかった。
「そうだね……その通りだ。ごめん。これでも軍人だからさ。感覚が麻痺しちゃってるんだろうねえ」
怒るどころかヴィクトルはしょんぼりと肩を落としていた。それでも彼の瞳にはユウリを心配する色が浮かんでいる。優しい彼を傷付けてしまった。ユウリはほぞを噛んだ。
「とにかく座って」
ヴィクトルが着席を促す。彼の執務室は応接室の役割も兼ねているらしい。執務机とは別に二人掛け用のソファが二対、硝子製のローテーブルが一つ置いてあった。
テーブルの脚には蔦を模した金の装飾が施されている。蔦はぐるぐると螺旋を描き、ところどころに葡萄の果実が生っている。ユウリは見事な意匠に感嘆の吐息を漏らした。
自分が一生働いても買えそうにないソファに腰かけるのはなかなかに勇気が要った。ユウリが腰を下ろすとヴィクトルはにっこり笑って手ずからお茶を淹れてくれた。
「ハーブティーだよ。精神をリラックスさせる効果がある」
「ありがとう」
目前に用意された陶磁器のティーセットもまた美しいデザインだった。全体に金箔が散らされ、陽光を浴びてきらきらと光る。ユウリはティーカップに口をつけた。甘みと酸味が丁度いいバランスで含まれている。
「僕、このお茶好きかも……」
「それはよかった」
ぽつりとつぶやくとヴィクトルが嬉しそうに目を細める。ユウリは自分が恥ずかしくなった。経験値の差があるのだから仕方がないとはいえ、ヴィクトルがこうも落ち着き払っていると一人であれこれ苦悩していたのがアホらしく思えてきてしまう。
ユウリは一息にお茶を飲み干した。
「さっきは八つ当たりしてごめん。もう大丈夫…だと思う」
「うん。それじゃあ本題に入ろう」
ミラが無人島でさらわれてからのヴィクトルの行動は迅速だった。帰りは彼がボートを漕いでユウリを灯台まで送り届けてくれた。去り際に彼はユウリにこんな言葉を残した。
昼までには誘拐犯を見つけ出せるかもしれない。だから今は自分のやるべきことをやりなさい。
ユウリのやるべきこと。それは灯台の見張りだった。
無人島に向かうとき、火だけは熾してきた。少しだけなら目を離しても大丈夫だろうと。だが定期的に油を足さなければ火は消えてしまう。
必ず誘拐犯を特定してみせるとユウリに約束してヴィクトルは帰っていった。ミラが心配で心配でたまらなかったけれど、ユウリはヴィクトルを信じて夜を明かした。
人生で二番目くらいに辛い夜だった。
日の出の時間が来てもユウリがまったく眠れずにいると、ヴィクトルの使いだという男が来て言った。ニキフォロフ閣下がお呼びです。正午が過ぎましたらヴァノヴァ砦までお出でください――と。ユウリは迷った。
あまり町には出たくない。けれどヴィクトルの呼び出しを無視することはできなかった。だって彼はユウリのために頑張ってくれている。ミラとはまったく親交がないにも関わらず。
久しぶりに町に出てユウリは人の多さに気圧された。無駄にやかましくて臭い。寝不足で痛む頭には町の喧噪は辛いものでしかなかった。それでもユウリはヴァノヴァ砦を目指した。現状ミラを救い出せるのはヴィクトルしかいないとわかっていたからだ。
「誘拐犯は見つかったよ。ミラという人魚をさらったのはアモス・サリンジャーだ」
ヴィクトルには既に洗いざらい事情を話してある。ミラが美しい人魚であることも。それゆえにさらわれたのだろうということも。
到底信じてもらえるような話ではない。普通はユウリの頭がおかしくなったと考えるだろう。だがユウリの話を聞き終えた彼はただ一言「わかった」とだけ言ったのだ。その一言がどれほどユウリを安堵させたか、彼は知らない。
ユウリは眉根を寄せる。サリンジャー。どこかで聞いたことのある名前だ。しばらく考えてユウリは腰を浮かした。
「サリンジャーってもしかしてっ」
「あ、ユウリでも知ってるんだね。そう。あのサリンジャー商会の会長だよ。爵位を持つ貴族でもあるね。サリンジャー男爵」
サリンジャー商会とはこの国でもっとも名を馳せている商会だ。すべての領土に支部があり、本部をこのヴァノヴァに置いている。
「実は前からあそこには黒い噂があってね。情報だけは集めてたんだ」
「黒い噂?」
「人身売買」
ユウリはヒュッと息を吸い込んだ。鼓動が早鐘を打つ。冷や汗が背中に滲んで止まらない。脳裏で過去が渦巻く。悲鳴と恐怖と悲しみ。カチカチと歯の根が鳴る。
「ユウリ?」
ユウリのただならぬ様子にヴィクトルが首を傾げる。いけない。彼に知られてはならない。彼に知られるのだけは嫌だ。ユウリは必死に呼吸を整えた。
「ご、めん。大丈夫。続けて」
「……うん」
ヴィクトルはまだ訝しんでいるようだったが、会話を続けることを優先した。
「サリンジャー商会は定期的に闇市でオークションを開いてる。うちの密偵が探りを入れてみたら埃だらけだったよ。呆れるほどにね。でね。今夜も闇市が開かれる。目玉商品は人魚だ」
ガンガンと頭が割れるように痛む。ヴィクトルの声が遠い。ユウリはかぶりを振った。朦朧とする意識を懸命につなぎ止めようとする。
「奴らはなかなか尻尾を出さなくてね。どうしても検挙に持ち込めなかった。だが今回は違う。物的証拠がこちらに残っているからね」
ヴィクトルがテーブルに小さな金具を置く。それはボタンだった。ボタンには薔薇と百合が交差している紋章が刻まれている。
「これはサリンジャー家の家紋だ。ミラをさらったのは奴の私兵に違いない。今夜闇市に乗り込んで徹底的に叩く。だからユウリは――ユウリ?」
眩暈がひどい。視界がぐらぐら揺れている。気持ちが悪い。苦しい。息ができない。ユウリはソファにばったりと倒れ込んだ。
気絶する寸前に見たものは、らしくなく取り乱しているヴィクトルの顔だった。


ゆるやかに意識が覚醒する。ユウリは重いまぶたをこじ開けた。
「あ、れ……?」
最初に視界に入ったのは見慣れない天井だった。豪華な燭台が天井からぶら下がっていて、それに自分の部屋よりもずっと暖かい。
「えっと、ミラがさらわれて、仕事して、昼にヴィクトルに呼ばれて、」
はっと息を呑む。そうだ。自分はヴィクトルと話している最中に気を失ってしまったのだ。ユウリは弾かれたように上半身を起こした。その拍子に上掛けがソファから滑り落ちる。おそらくヴィクトルが気遣ってかけてくれたのだろう。ユウリは自分が情けなくなった。
ユウリは慌てて立ち上がった。ぐるりと部屋を見回す。執務机に突っ伏してすうすうと寝息を立てているヴィクトルを発見し、ユウリは動きを止めた。
「ヴィク、トル?」
そろそろと近付く。よっぽど疲れているのか、ヴィクトルは起きる様子を見せない。ユウリはじーっとヴィクトルの頭を見下ろした。普段は自分が見下ろされる側なので、なんだか変な感じだ。
抗えない誘惑に駆られ、ユウリは人差し指をヴィクトルのつむじに押し付けた。わりと強めに。ヴィクトルが身じろぎ、頭を起こそうとする。ユウリは急いで後ろに下がった。
「………ユウリぃ?」
「はい僕です」
「今俺の頭触らなかった……?」
「全然まったく微塵も触ってません」
ユウリは激しく首を横に振った。寝ぼけまなこのヴィクトルが不思議そうに頭をさする。それより、とユウリはヴィクトルに近付いた。
「ミラは!? ミラはどうなったの!?」
「――五秒待って」
ユウリは口の中で五秒数えた。先程まで眠たげだったヴィクトルが急に真剣な眼差しになる。ユウリはうわあと口を開けた。かっこよくてどきどきする。
「ミラは無事だよ。捕まってた人間も全員保護した」
「ほんとに!?」
どうやらユウリが意識を手放している間に全ては終わってしまったらしい。
「人身売買に関わってた連中も一人残らず捕まえた。けど本部の膿み出しが済んだだけだ。支部の洗い出しまでとなると相当時間がかかるだろうね」
ふわあとヴィクトルがあくびをこぼす。表に出さないだけで彼はかなり疲弊しているようだった。そんな彼を見てユウリの胸はいっぱいになった。本当に感謝してもしきれない。
「あ、そうだ。あと灯台には俺の部下をやってるから大丈夫。勝手に仕事場を荒らしてごめんね」
窓の外はすっかり暗くなっている。ここからでも灯台の赤々と燃える炎はよく見えた。ユウリはぐすっと鼻水をすする。
「ありがとう。僕、僕、なんてお礼を言ったらいいか」
「うん。ユウリのために俺すごく頑張ったんだ。だからわがまま聞いてほしいなあ」
「なんでも! なんでも言ってよ!」
「じゃあ、膝枕して」
「……え?」
ユウリは自分の耳を疑った。あのヴィクトル・ニキフォロフから膝枕という単語が聞こえたような気がするのだが空耳ではなかろうか。
「膝枕。ね、いいでしょ?」
「で、でも、僕の膝やわらかくないし、そこそこ筋肉あるから硬いよ?」
「俺やわらかい枕より硬い枕のほうが好きだから」
ヴィクトルが輝くような笑みで言い切る。ユウリはそこまで言うのならと彼の願いを聞き入れた。ソファに腰を下ろすと早速ヴィクトルが横になって頭を乗せてくる。
(うわあうわあうわあ!)
ヴィクトルのこの上なくきれいな鼻梁が、さらさらの前髪が、つやつやの唇が、間近にある。こんなに近い距離で彼を見つめたことはない。見れば見るほどヴィクトルは恵まれた容姿をしているなとユウリはしみじみ感心した。
「ねーユウリ」
「なあにヴィクトル」
「今度一緒に花瓶を買いに行こう」
「花瓶、を?」
「そうだよ。ユウリの部屋に合うやつ。素朴で、小さくて、高すぎなくて、ユウリが好きなやつ。プレゼントさせて」
「………」
本当は嫌だと断るつもりだった。なのに唇からこぼれたのは正反対の言葉で。
「うん。いいよ」
嗚呼とユウリは胸の内で嘆いた。彼から向けられる信頼が、彼の誠実さが、まぶしい。まぶしくて嬉しくて。もう認めるしかない。無視はできない。
(僕はヴィクトルが大好きだ)
ヴィクトルといると楽しい。ヴィクトルと釣り合うような人間になりたいと思う。なれないと最初から諦めるのではなくて。
(僕は変われる?)
もはや彼は生活の一部になってしまっている。ユウリの中に深く彼の存在が根付いている。ヴィクトルを失いたくない。失えない。
「ヴィクトル。僕、頑張ってみるよ」
いつの日か必ず。顔を隠さずに堂々と町を歩けるようになる。ユウリが静かに宣言するとヴィクトルは花が咲くように笑った。


翌日の夕暮れ。ユウリはミラを改めて紹介するため、ヴィクトルと再び無人島に赴いた。
「私ここを離れるわ。人魚がいるってみんなに知られちゃったから」
顔合わせが済むとミラは肩をすくめて言った。ユウリもヴィクトルも異論はなかった。ミラの噂は大きく広まっている。このままではまた同じことが起きるだろう。
「ちょっとの間だけど楽しかったわよ。ユウリのダンス最高だったわ。いつかまた会いましょう! ヴィクトルも!」
別れのときでさえ、ミラは明るく溌剌としていた。二人と順番にハグを交わしてミラが砂浜から離れていく。ユウリとヴィクトルは彼女の姿が海面に消え、影が見えなくなるまでずっと手を振るのをやめなかった。
「ユウリ」
「うん?」
「ダンスって何? ミラと何をしてたの?」
うっとユウリはひるんだ。ヴィクトルがにやにやしながら顔を近付けてくる。新しいいたずらを思いついた子供のような顔だ。ユウリは誤魔化すのを諦めた。朝一のダンスを日課にしていることを白状するとヴィクトルの瞳が宝石のようにきらめいた。
「俺も! 俺もユウリとダンスしたい!」
「あーはいはい」
「何その生返事。ユウリ踊る気ないでしょ」
「なんか最近のヴィクトル子供っぽいね」
「ちょっと! なんでボートに乗るの! え、待って待って待って! 本気で俺を置いてくつもり!?」
砂浜から徐々に離れていくボートのへりをヴィクトルががしっとつかむ。彼の必死な様子が面白くてユウリは声をあげて笑った。
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